沈まぬ太陽

やっと5冊読み切る。なんかやりきった感がある。

この小説は著者による事故や会社、モデルとなった人物達への取材を通して得た情報を紡ぎ合わせて作ったノンフィクション"的"な小説とのこと。小説としては傑作だ。ただ小説としてのストーリーを大事にしたからか一部に感情移入しているからかはわからないけど、史実を語るにおいては問題のある作だなと思う。

小説の成り立ちとかなり刺激的な内容に、当時は間違いなくセンセーショナルなインパクトを周りにばらまいたんだろうなと思いつつ、ようやく読み終えたので、ちょっと調べてみた。主人公のモデルである小倉氏の講演だったり、悪役に仕立てられた人やメディアが反論していたりして、やはり盛り上がっていた。
http://ja.wikipedia.org/wiki/沈まぬ太陽

論壇なるサイトで批判している高尾記者の批判記事はすごいボリューム。ただ言うことは結構しっくりくるため、彼の論理には多くの真実があると思う。主人公恩地と会長国見の聖人ぶり、労働組合委員長時のスト権の扱い方における恩地氏の行動と以後の聖人ぶりのギャップ、ナイロビにおけるブルジョワ生活など、小説を読んでいる最中も違和感のあった点は、事実から小説のためのストーリー構成への変換の仮定で吸収できなかった本当の姿なのだろう。といっても半官半民企業における金と政治のやり取りは本当にありそうだし、接待漬けや利権確保のための社内、社外政治の姿もそうなんだろう。ただ、どちらかが正義でどちらかが悪という区別が簡単につくものではないという現実は、小説で描くには適さなかったということなんだろう。


そういうスタンスで読む分には面白いということ。



映画化においてはJALへのスポンサー収益を気にして電通などの広告代理店はかまなかったそうで、渡辺謙が撮影の苦労を顧みて、試写会で泣いたそうだ。まあ彼は本心からそう思ってるかもしれないが、これをあえて今この時期にぶつけてくる角川とかにはPRとしての野心を感じるし、JALがそれにクレームつけるのは当たり前だろう。だって山崎氏という所詮は一個人が描いた架空の世界のせいで現実世界にいる従業員達は苦労を受けるのだから。


この前ガイアの夜明けJALの再建についてやってたが、これもまた面白く、結局組合問題は解決できず、困っている現状がわかる。従業員とか社長ががんばってる姿が描かれているけど、やっぱり無駄が多いように見える。自筆のメッセージカード書いて配ったりする時間は就業時間内にやってたりしたらそれこそ無駄だし、役員部屋やミーティングルームの調度品やすごく高そうだし。なんか経費削減を進める中でどうなのだろうか。まあ負債から見たら対した話じゃないけど、重厚な革張りのいすに座って、困ったって言ってもね。この番組はJALに対してどちらかというと好意的だけどこれが沈まぬ太陽でバッシングされてた日経系列のテレビ東京というところがまた面白い。


世の中ってこわいな。


・悪役にされた新聞記者高尾氏の批判
http://www.rondan.co.jp/html/ara/yowa3/

・小倉氏講演
http://minseikomabahongo.web.fc2.com/kikaku/99ogura.html


沈まぬ太陽〈5〉会長室篇(下) (新潮文庫)

沈まぬ太陽〈5〉会長室篇(下) (新潮文庫)